以下本文
神戸アイライト通信 NO.40
発行:2019年1月
- ・ロービジョン・視覚障害専門相談事業(トータルサポート事業)10周年!
- ・所感
- ・兵庫県委託 公共交通機関と連携した視覚障害者の安全確保実践研修事業がスタート!
- ・日常生活用具 給付対象品(神戸市)
- ・アイライトフェア2018
- ・魔法の杖のお話 その2
- ・編集後記
ロービジョン・視覚障害専門相談事業(トータルサポート事業)10周年!
理事長 森 一成
神戸市の委託事業としてロービジョン・視覚障害の方が対象の専門相談事業(トータルサポート事業)が2008年4月から実施して2018年で10周年になりました。
神戸市には約6000人が視覚障害で障害者手帳を取得しています。しかし眼科医によると視覚障害者の実数は、手帳取得者の3倍と言われています。そうすると約18000人いることになります。また毎年、神戸市で約200人が新たに視覚障害で身体障害者手帳の認定を受けています。これも約600人が神戸市内で新たに視覚障害になっているということになります。兵庫県になると、さらにその3倍ということになります。
この事業は、手帳の有無は問いません。手帳取得者の倍ほどいる潜在的視覚障害者のほとんどはロービジョンの方かと思います。またその方々の大半は、見えにくさを改善する方法を全く知らずに過ごしているはずです。この事業は、そういった周囲から困難さがみえにくい方々も念頭においた事業と改めて感じています。
今までの皆様のご協力に感謝するとともに、今後とも宜しくお願い致します。
所感
副理事長 山縣祥隆 (山縣眼科医院)
早いもので2018年も残りわずか、来年は元号も変わりますね。4月、5月の10連休も楽しみですが、あまり休むと勤労意欲が低下するのではないかと心配です。
さて、ハイテクノロジーの進歩によってその昔、手塚治虫氏の描いた鉄腕アトムの世界、当時は空想だった社会が今では確実に現実のものとなってきています。製造業の現場ではすでに当たり前のように機械が活躍し、家庭用として開発されている4足歩行ロボットは、2足歩行をしたりジャンプしたり、挙げ句の果てにはバク転して世界中が驚きました。人型ロボットの進歩も目覚ましく、進歩した人工知能が組み込まれれば、いよいよ鉄腕アトムが空を飛ぶ日も近いのかも知れません。
皆さんも耳にされている人工知能、医学の分野でも驚異的な進歩が報告されています。例えば糖尿病網膜症、糖尿病が重症化すると網膜出血が生じ、不摂生が続けば失明してしまいます。糖尿病にかかれば内科の先生に治療してもらうと同時に、定期的に眼科の先生に眼底出血がないか検査してもらう必要があります。眼科でいう眼底検査ですが、グーグルの人工知能開発チームの研究で、「ディープラーニング」というプログラムを内蔵した人工知能による眼底出血の診断は、なんと新米の眼科医より高いとのことです。
あるSF映画で、ロボットが主人公の腕の外傷を縫合している場面がありましたが、もしかするとそのような時代が本当にやってくるのかも知れません。ではそのような時代、私達人間の医師には何が求められるのでしょうか。
人間がロボットに唯一勝るところがあるとすれば「心」のはず、と考えてみます。しかし人工知能「セルフ」は、同居している人の顔の表情や話し方を読み取り、毎日の精神状態や健康状態の分析を行い、愚痴や嘆きに付き合ってくれるとのことです。そう言えば、完治する可能性のない目の病気と判明した患者に、不用意に「治りません」「失明します」と話し、患者さんを絶望のどん底に突き落とす「心」ない眼科医が未だにいると聞きます。勉強不足なのか思いやりの心がないのか、「ディープラーニング」内蔵の人工知能は、このような大それた間違いは絶対に引きおこさないでしょう。圧倒的な知識量と診断技術を持つ人工知能に対して人間が勝るのは何か、私達、医師一人一人が真剣に考え、後進の指導をしていく必要があると思っています。皆様はどのようにお感じでしょうか。
兵庫県委託 公共交通機関と連携した視覚障害者の安全確保実践研修事業がスタート!
神戸アイライト協会で声かけの啓発チラシを作成。12月、JR西日本神戸支社による目の不自由なお客様の転落防止への取り組みに合わせて、各駅でのチラシ設置が始まりました。視覚障害への理解が深まり、声かけが広まって、駅での事故が未然に防げることを願います。
日常生活用具 給付対象品(神戸市)
神戸アイライト協会相談電話 078-221-6019
☆音声血圧計 10,000円(給付上限15,000円)
測定値を読み上げます
視覚障害1級・2級、40歳以上の方
☆ICタグレコーダー(タッチボイス)39,900円(給付上限39,900円)
お好きなメッセージをシールと関連づけて簡単に録音
調味料や化粧品、CDなど中身のわからないものは タッチボイスに録音してテープを貼りつけ タッチするだけで中身を音声で教えてくれます!
視覚障害1級・2級の方
アイライトフェア2018
事務局長 和田眞由美
11月3日(土曜・祝日)、神戸市立葺合文化センター大ホールにおいて、「トータルサポート事業(ロービジョン・視覚障害専門相談事業)の10年」をテーマに、アイライトフェア2018を開催。視覚障害当事者の方、ご家族、医療福祉関係者などのご参加でスタッフ含め約120名の盛況であった。
理事長の森一成からの報告では2007年、中山記念会館への移転にともない相談者数が急増したこと、2008年に神戸市のご理解をいただいて始まったトータルサポート事業(神戸市委託事業)が10年を迎えることができたこと、その実績数、更に事業の継続にご支援ご協力いただいた方々への感謝と、そして必要な情報を知らない患者さんやロービジョンの方は、まだまだ多く、自宅や職場などその方の必要な場所に訪問しての相談や歩行訓練などの充実が今後の大きな課題であることも合わせて伝えられた。
眼科医の仲泊聡先生による医療講演では、研究と治療とロービジョンケアが一体となった神戸アイセンターのオープンからまもなく1年を迎えられるということで各数字でまとめた報告をいただいた。ロービジョンケアをおこなうビジョンパークの目標のひとつとしてあげられたのは「軽度障害者のカミングアウト」。見えにくさがあるけれど、その症状を言えない方を言えるようにするためにも広く啓発活動をおこなっていくとのこと。最近の話題としては、スマホの活用など各種「デジタルビジョンケア」の紹介があった。
シンポジウムでは実際にトータルサポートを受けていただいた3名の当事者の方々より、受ける前の状況とどのようなサポートを受けたか、その後どのように変わっていったか、心理面・生活面・就労のことなどを話していただいた。相談してサポートを受けたことで「自分が自分らしく前を向いてまた歩いていこうと思えた」との言葉があった。
歩行訓練士からは、視覚障害者が、やりたいことを普通にやる、そういう姿があること、特別な存在でも特別なことでもない、普通になること、視覚障害者がどんどん街にでることをめざしてアイライトは活動している。電話相談では「怖くて外に出られない」「相談に行けない」「今日、死のうと思った」と話される方もあり、神戸アイライト協会のある中山記念会館に辿り着けない方もいる。訪問という形で相談を伺いにも行けるような体制になって、もっとたくさんの方の思いを聞いて、気持ちの回復や外に出られるきっかけになればと思う。もっと知ってもらって、もっと充実していくことが願いであるとまとめた。
当日は神戸市以外からも多くの視覚障害者やご家族のご参加があった。2021年には中山記念会館が新しく大きくなって生まれ変わろうとしている。そのときに向けて今の神戸アイライト協会の体制では不十分である。これまでに積み上げさせていただいたノウハウと広く繋がったネットワークで、神戸市だけでなく兵庫県全体として「相談」と「訪問」の体制が充実することを、神戸市と兵庫県に対して、強く強く要望していく。
魔法の杖のお話 その2
歩行訓練士 住吉 葉月
今回は「魔法の白い杖」を使ったら変身!現在進行形の女性のお話です。
歩行訓練の後の雑談で、Aさんが嬉しそうに話してくれました。
「先生、この間ね、子どもの遠足でキャラ弁当作ったんですよ、私」
「え、Aさんが自分で?」「はい。キャラとかお花とか要求度が高くって、完成まで数時間かかりました!」
歩行訓練で訪問し始めた頃は、不安や不満がたくさんだったAさんでしたが…
「見えなくなった時、自分はもう何もできないと思い込んでました。料理も掃除も、ヘルパーさんにほとんど全部やってもらって。外出もできないから子ども達を遊びに連れていけないし、みんなで卑屈になって、閉じこもっていたんです」
始めは、白杖で歩くことに消極的でしたね。
「本当は白杖も持ちたくはなかったし、ひとりで歩けるなんて思ってもいませんでした。それが、歩行訓練を始めて、ゴミ置き場やコンビニに行けるようになって。だったら、これもできるんじゃないか、次はこれも…と、気持ちが前向きになってきて。自分で電話もかけられなかったのが、今ではスマホも使ってるし、音声パソコンでメールもできるようになりました。あきらめたことばかりだったのに、今では何でもやってみようと思えます」
それにしても、お子さんはAさんが見えないこと、分かってるんですよね?それなのにキャラ弁当作ってとお願いされるって、ハードル高くないですか?
「最近分かったんですが、子ども達にとって『目が見えない』ということは、太っている、やせているのような、個性のひとつと思っているらしいんです。見えないイコールできない、ではない。なので『見えないけど、私のママだから、できるよね?』と言ってきます。私も負けず嫌いなので、やってやる!ってなります(笑)お弁当も作るし、ミシンも使います。私も子どもに、ママも歩行訓練頑張るから、○○ちゃんも頑張れるよね?って発破をかけますけどね!」
Aさんにとって、歩行訓練が生活の軸となっているそうです。Aさんだけでなく、家族みんなで成長している様子がよく伝わってきます。白杖使うとそんなに変わるの?と気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。あなたも変身するかも?
【編集後記】
7月に西日本を中心とする豪雨災害が発生。当協会では募金の呼びかけをおこない、皆様からお預かりした15,500円を、日本盲人会連合と日本盲人福祉委員会により設置された被災視覚障害者支援対策本部へお届けしました。ご協力に感謝申しあげます。11月におこなった避難訓練では水害を想定して上の階への避難を試みました。初めて4階フロアにあがった方もあり、屋上への階段の位置や、その構造を知っておくことも「備える」ために大事なことだと思いました。平成が終わり、新しい年号がスタートする年!災害や争いのない平和な時代が訪れますように☆
(和田)
本分終了