以下本文

アイライト通信 No.2
発行:2000.3

・マイ・チャレンジ 2
・点V連とは?
・ロービジョン・クリニックの普及にむけて

     

神戸アイライト協会として兵庫県で訪問型視覚障害リハビリテーションの活動を開始して、もうすぐ1年になります。
多くの方々の支援と協力のもと、活動を続けることができました。
賛助会員、利用会員、そのほかにも力を貸していただいた多くの方々感謝しています。
活動の一つの柱である訪問指導では、10月から神戸市視力障害者福祉協会の歩行訓練事業を担当させていただき、より充実した形で行うことができるようになってきました。
神戸市外の歩行訓練希望者も口コミなどで続いています。
また弱視レンズや拡大読書器の紹介や使用でのサポートなどのロービジョン訪問活動も行ってきました。
あきらめていた一人歩きができた喜び、何年も見えなかった文字が久しぶりに読めた喜び、これらの喜びに出会った時、この活動を始めて本当によかったと思ています。
これらの活動に多くのニーズを感じますが、行政からの支援制度がほとんどないのが辛いところです。
より良いシステムをめざして多くの方たちと粘り強く取り組みたいと考えています。
地域における医療と福祉の谷間を埋めるために、医療スタッフの方と協力して患者さんのケアに当たったり、医療関係者の方などを対象に視覚障害リハビリテーションセミナーを開催したりしました。
しかし、まだまだこれから多くのことに取り組まなければならないと思っています。
3月4日には第2回視覚障害リハピリテーション研修会を開催いたします。
次号ではその報告ができるかと思います。
来年度も講習会、親子の集いなどイベント活動も計画しています。
これからもご協力、御支援をよろしくお願い申し上げます。

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マイ・チャレンジ 2

森井 ひとみ

さあ今日からいよいよ本龍野駅での訓練の始まりです。
やっぱり私の心の中には電車に乗ってどこかへ行きたいという願望が強いのか、先生の説明を聞いているとわくわくしてきました。
駅のホームは危険な所だと前からよく聞かされていたので少し緊張気味です。
止まっている電車を利用して乗り降りの仕方を何回も教えていただきます。
次に電車で姫路駅へ。
姫路では地下にあるいろんなお店や山陽百貨店への行き方、御幸通への行き方などていねいに教えてくださいました。
一人で姫路で買い物ができるようになると思うと楽しくなってきます。
ちょっとコーヒーブレークをするなど楽しい時間もありました。
でもすべてが順調にいったというわけではありません。
ある時、何回も練習している点字ブロックを見失い、自信をなくし先生に「もう、やめます。
」といってしまうほど落ち込んでいました。
しかし、その時友達と姫路で会う約束をしてしまいました。
先生からのゴーサインも出ていないのに、何と気持ちの切り替えが早いというか無鉄砲というか、あまり後先を考えない私の性格がまた出てしまったようです。
約束をしてしまってから、ちゃんと行けるんやろかとだんだん不安になってきました。
11月28日、約束の日になりました。
朝でかける用意をしていると高1になる息子が、「お母さん、どこへ行くん。
」と聞いてきました。
「一人で姫路まで行って友達と会うんや。
」と言ったら、「無謀なことを。
」の一言が返ってきました。
「無事に行けたら記念に何かおみやげをこうてきたるわ。
」と私が言うと、「明日から俺の飯が食えんようになったら困るから無理せんでええで。
」と言われてしまいました。
優しい一言といっていいのか複雑な気分で家を後にしました。
はじめは、とても不安だったのですが高校生風の男の子や知り合いの人などに一緒に行きましょかと声をかけていただき、やさしい言葉にほっとしうれしくなりました。
でも私の歩き方がよっぽど危なっかしいのかもしれないとちよっと気になりました。
しかし、とにかく無事に待ち合わせの場所である姫路駅の改札口にたどりつくことができました。
「やあ、ほんまにちゃんとこれとるやん。
すごい、すごい。
」と友達も喜んでくれました。
私もうれしくて友達との会話もはずみ、とても楽しい一時を過ごすことができました。
私は目が見えなくなってから初めて一人でバスと電車を乗り継いでまがりなりでも姫路まで行けたということは、私にとっては大きな自信になりました。
この日は忘れられない大切な記念日になりそうです。
とても感動的な1日でした。
何回か途中でやめようかと思ったことがありましたが投げ出さなくてよかったと思います。
神戸の友達に姫路まで来てもらうのは気の毒なので、今度は明石で会う約束をしているところです。

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点V連とは?

「もしもし・・・グレープフルーツはマスあけしますか?」「WinBESの使い方の講習に来てもらえませんか」「保険契約のしおりの点訳をお願いします」点訳ボランティアやユーザーの電話の声にあと押しされて、スタッフが週三回兵庫県福祉センターに通い出して今年で17年目に入りました。
その当時,県下のあちこちで増え始めた点訳ボランティアグループに呼びかけて交流会をもち、お互いの情報交換や個々のグループでは解決困難な課題に皆んなで取り組んでいこうと話し合いました。
それが「点訳ボランティアグループ連絡会」(点V連)の始まりです。
1983年12月のことで、現在では45グループが参加しています。
運営は、グループの回り持ちで選出された幹事4名を中心として、点字110番委員、パソコン委員、点V連ニュース担当、各種プロジェクト担当、事務担当と各グループから集まったスタッフがローティションを組んで事業に当たっています。
その財政はグループからの年会費のみであるため、企業・個人の寄付にたより、民間の助成金に申請書を出すのが幹事の大事な仕事です。
点字110番は、連絡会結成4年目に一会員の「点字に関して気軽に質問できる場がほしい」という声を受けて、点訳者のための電話相談日を設けたのが始まりでした。
ところがこれがマスコミの誇大報道で点訳も引き受けることになり、全国のユーザーからの依頼が殺到 --特にプライベートな点訳をして貰えるところがなくて困っている現状を知らされました。
以後110番はボランティアからの相談と、ユーザーからの点訳依頼を加盟のグループヘコーディネイトするという仕事を担って、週二回火曜・金曜に開局しています。
ちょうどその頃、IBM社会貢献活動によるパソコンの寄贈を受けてパソコン点訳がはじまり、その全国ネットワーク「てんやく広場」(現「ないーぶネット」) にも参加しました。
点訳作業の便利さ・面白さに意欲をもやし、次々と入力された文書をホストコンピュータに登録したり、引き出したり…パソコン点訳の出現はまた通信や機器の操作の相談等の仕事が増すことになり、通信担当によって更に月曜日も開局しました。
パソコンの導入から10年余、今では、それまで手をつける事ができなかった大物の辞書や事典、膨大な専門書等にも共同点訳で取り組むことができるようになりました。
点訳の依頼はボランティアが得意とする小説類は殆どありません。
圧倒的に多い専門分野の要望に応えるためにも毎年数回の学習会を開催し、その時時のニーズに見合った勉強の場の提供はかかせません。
今年度は点字離れの進んでいる状況を受けて、「中途失明者への点字の教え方の実際」の講習会を三回もちました。
昨年の5月にはユーザーによる「点V連利用者友の会‐‐いずみ会」が結成されました。
個々のユーザーのなまの声にしっかり耳を傾けたいと思います。
これからも点V連は「ュ-ザーと共に」「今何が必要か」を基本的な視点として、そのニーズに少しでも応えることができるように、そして点V連が必要とされる限り歩み続けます。
(文責 戸田律世子>

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ロービジョン・クリニックの普及にむけて

兵庫医科大学眼科助教授 山縣祥隆

本年4月の日本眼科学会の開催に合わせて、日本ロービジョン学会が発足いたします。
川崎医科大学の田淵昭雄教授を会長に、国リハの簗島謙次先生、私を含めたて国リハの研修会卒業生を中心に、現在、発足に向けて準備中です。
最近では、全国の眼科医療施設でロービジョン・クリニックが開設されてきていますが、ロービジョン学会の設立は、より学術的、社会的な研究の促進を目的としています。
したがって入会のご案内も、医師や硯熊訓練士を始め、各種リハビリテ-ション関係者、ロービジョン・クリニックに取り組んでおられる眼鏡士の方々、各種ロービジョン・ツールのメーカーの方々、視覚障害ボランティアの方々のみならず、バリアフリーという観点から建築士、コンピューター関係の先端技術畑の方々など、多岐にわたっています。
また、ロービジョンを含め各種福祉制度や環境の進んだ諸外国との交流も目的に掲げ、近い将来は、国際リハビリテーション学会の主催をも念頭においています。
私は昭和63年から2年半、アメリカ合衆国に留学していましたが、アメリカで実際に生活してみて、本当に数多くのことを体験し、色々と考えさせられました。
例えば、バス。
アメリカでは停留所に車椅子の方かいらっしゃると、運転手はエンジンを止め、後部扉に設置されたリフトでその人を車内へ移動させ、車椅子を固定した後、バスの運転を再開します。
当たり前のことのようですが、その間、乗客は黙って作業が終わるのを待ちます。
もうお気づきでしょうが、その代わり、バスの運行は全く時間通りには行きません。
待てど暮らせど来ないバスを、文句を言いながらですが、じっとまっている光景はしばしば目にしました。
さて、先日、アメリカ時代の友人が日本に来た折り、一人で北海道を旅行したいとのことで、旅程を組んであげました。
「○時○分に○駅発の特急○は、○時○分に○駅に着くので、○分待ってもらえれば、○時○分発のバスが来ますので、それに乗って…」、日本では当然の旅行計画でしょうが、彼にとってはこれがカルチャーショックだったようで、本当にそんなに正確に列車が着いてバスが来るのかと驚いていました。
この二つの話は、福祉環境についての本質的で無視することのできない重要な問題を含んでいます。
つまり、たとえ環境が整っても、それを受け入れる一般の方々の充分な理解がないとうまく機能しないわけです。
先に述べたロービジョン学会を通して、視覚障害リハビリテーションの基礎的、臨床的な研究が行われることと思いますが、それと平行して行われなければならないのが、「環境の整備」と「福祉に対する理解を深める」ことです。
ローピジョンの問題については、ロービジョン.クリニックができるだけ多くの病院で行われるようにすることが一つの環境整備と考えますし、一般の方々の「福祉に対する理解を深める」ために、まず、眼科医の「福祉に対する理解を深める」ことが大切なように思います。
私自身は、福祉問題では全くの初心者ですが、大学病院の中枢に籍をおく医師として、先に述べた二つの目標を実践していきたいと考えています。

本分終了